【過払い金】落札した物件に対する入札保証金の返還請求

援助金
支出
決定

主文

1 第1事件原告・第2事件被告(以下「原告」という。)は,第1事件被告・第2事件原告(以下「被告」という。)に対し,8億1029万4643円及びこれに対する平成20年5月31日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告は,被告に対し,別紙図書目録記載の図書を引き渡せ。
3 原告の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1事件,第2事件とも原告の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 第1事件
被告は,原告に対し,2億6000万円及びこれに対する平成20年8月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
主文第1項及び第2項同旨

第2 事案の概要等

1 事案の概要
(1) 第1事件
第1事件は,被告が所有する都市型立体遊園複合施設「フェスティバルゲート」を構成する別紙物件目録記載の不動産(以下「本件施設」という。)に係る条件付き一般競争入札(以下「本件入札」という。)において,本件施設を落札した原告が,落札後,原告の都合によらずに本件施設の売買契約を締結するに至らなかったと主張して,消費寄託契約に基づく寄託物返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき,入札保証金2億6000万円の返還及び同金員に対する返還を催告した日の後の日である平成20年8月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 第2事件
第2事件は,被告が,(1)原告の都合によって本件施設の売買契約(以下「本件売買契約」という。)の締結に至らなかったと主張して,本件売買契約締結準備のために原告との間で締結した基本協定(以下「本件基本協定」という。)に基づき,違約金8億1029万4643円及びこれに対する支払を催告した日の後の日である平成20年5月31日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)使用貸借契約の終了に基づき,本件施設に関する別紙図書目録記載の図書(以下「本件図書」という。)の返還を求める事案である。
2 前提事実(末尾に証拠等の記載のない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者
ア 原告は,都市及び地域開発・環境整備に関する調査,研究,企画,設計管理,再生運営業務等を目的として平成19年9月14日に設立された株式会社である。
イ 被告は普通地方公共団体であり,その所有に係る本件施設の管理を,地方公営企業法に基づき,公営企業管理者である大阪市交通局長に委任していた。
(2) 入札実施要領
被告は,本件施設を条件付き一般競争入札により売却することを決め,平成19年11月20日,買受希望者を募集するため,「条件付一般競争入札による市有不動産の売払い実施要領」(以下「本件実施要領」という。)を公表した。(甲2,乙2)
(3) 落札に至る経緯
ア 原告の取締役であるAは,Bに対し,本件入札に係る本件施設等の資料の閲覧を依頼し,Bは,平成19年12月11日,大阪市交通局庁舎内において,上記資料を閲覧した。
イ 平成20年2月8日,本件入札が行われ,原告は,事前に入札保証金として2億6000万円(以下「本件保証金」という。)を納付した上,26億円(契約金額(売買代金)は,消費税及び地方消費税相当額を含め,27億0098万2142円である。)で入札し,落札した。
(甲7)(4) 本件基本協定の締結等
ア 被告は,原告から,本件施設を取得した後の工事計画を検討したいとして,本件図書の貸借方の申入れがあったことから,平成20年2月19日,原告との間で,本件図書について期限の定めなき使用貸借契約を締結し,原告に本件図書を交付した。
イ 原告は,平成20年2月21日,被告との間で,本件売買契約を締結する準備をするために,本件基本協定を締結し,協定書を交わしたが,そこにおいては,以下の条項が定められていた。(甲11,乙1)
(ア) 本件売買契約(第2条)
被告及び原告は,大阪市会における平成19年度補正予算の議決を得た後,平成20年3月末をめどに,本件売買契約を締結する。
(イ) 本件基本協定の解除(第5条)
a 被告は,大阪市会の議決が得られない場合,本件基本協定を解除し,本件売買契約を締結しないものとし,原告は被告に対しその賠償を請求することができない(2項)。
b 被告は,5条2項の規定により本件基本協定を解除したときは,本件保証金を原告に返還する。
ただし,その受入期間について利息を付さない(3項)。
c 被告は,原告の都合により被告が指定する期限までに本件売買契約を締結しない場合は,本件基本協定を解除するものとする。
(4項)d 被告は,5条4項の規定により本件基本協定を解除したときは,本件保証金を被告に帰属させることができる(5項)。
(ウ) 違約金(第6条)
原告は,5条4項の規定により本件基本協定が解除された場合,売買代金の3割(1円未満切上げ)に当たる8億1029万4643円を違約金(以下「本件違約金」という。)として,被告の指定する期間内に被告に支払わなければならない(1項)。
ウ 被告は,本件売買契約締結の見込みについて大阪市会に報告し,大阪市会は,平成20年3月28日,平成19年度補正予算の議決をした。
(甲18の1及び2)
(5) 本件基本協定の解除
ア 被告は,平成20年5月9日付け「通知書」により,原告に対し,同月14日を最終期限として本件売買契約を締結するか辞退するかを決めることを求めたが,原告がこれに応じなかったことから,同月15日付け「通告書」で,原告に対し,本件基本協定5条4項に基づいて同協定を解除した上,同条5項に基づいて本件保証金を被告に帰属させるとの意思表示をするとともに,同日付け「請求書」で,同月30日までに本件違約金を支払うよう請求した。(甲19,乙19,20,21)
イ これに対し,原告は,平成20年7月29日,被告に対し,本件保証金を1週間以内に返還するよう請求した。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
〔第1事件〕
(1) 本件売買契約が締結されなかったのは原告の都合によるものか(争点1)
【原告の主張】
ア 本件基本協定5条4項の「原告の都合」とは,「正当な事由がなく」と解釈すべきであるところ,本件売買契約の締結に至らなかったのは,原告の都合によるものでないことは,以下の事実から明らかである。
(ア) 本件入札当時,本件施設に残っていたテナント(2店舗)で営業を行っていた株式会社Eが被告及び本件施設の前所有者である受託銀行を相手取って提起した損害賠償請求訴訟(以下「本件損害賠償請求訴訟」という。)が存在していたところ,被告は,同訴訟の存在,内容及び帰趨がEによる本件施設の明渡しに影響することを認識しながら,本件実施要領にあえて記載せず,この事実を隠ぺいしていた。
そして,原告が本件入札前に閲覧した資料の中にも本件損害賠償請求訴訟に関する資料がなかったことから,原告は,同訴訟の存在を知らずに本件施設の購入及びその希望金額について意思決定を行った。
原告は,平成20年2月下旬ころ,被告から,本件損害賠償請求訴訟の存在を知らされ,同訴訟に関する意見が記載された書面(以下「本件意見書」という。)の交付を受けたが,本件意見書には「受託銀行はEに対して責任はない」と記載され,被告の担当者も負けることはないなどと説明していたし,そもそも本件実施要領には記載されていない訴訟であったため,特に関心を払うことはなかったものである。
(イ) しかし,その後に言い渡された本件損害賠償請求訴訟の判決において,Eの受託銀行に対する損害賠償請求が一部認容された。
また,本件意見書によれば,Eは,被告から提起されていた上記テナント(2店舗)の明渡請求訴訟(以下「本件明渡請求訴訟」という。)において,被告の賃料未払による賃貸借契約解除の主張に対し,本件損害賠償請求訴訟における損害賠償請求権を自働債権として賃料と相殺する旨主張していることが判明した。
この相殺の主張が認められると,賃料未払を理由とした賃貸借契約の解除は認められなくなるのであるから,本件損害賠償請求訴訟の存在,内容及び帰趨は,Eに対する本件施設の明渡請求権の存否に重大な影響を与えるものであった。
このように,原告が本件施設に投資するに当たって,不確定な新事実が判明したことから,原告は,これらの新事実について出資者に説明し,判断を受ける必要が生じたため,被告に対し,本件損害賠償請求訴訟についての説明を求めたところ,被告は,自らは勝訴しているので,同訴訟の判決は原告の事業には関係ないとして,誠意のある説明をしなかった。
(ウ) また,原告と被告との間においては,不動産売買契約書の条項が確定せず,平成20年3月31日までに本件売買契約を締結できる状態ではなかった。
(エ) 原告は,平成20年3月26日,被告に対し,上記(ア)ないし(ウ)の各事情により,同月31日までに売買契約を締結することを一時留保する旨を伝えたところ,被告は,このような事実を秘して大阪市会の議決を得た上,本件明渡請求訴訟の判決を待つことなく,一方的に同年5月14日を最終期限と定め,同期限を経過するや本件基本協定を解除した。
イ 本件基本協定5条4項,5項によれば,本件保証金の法的性質は,原告が自己の都合により被告が指定する期限までに売買契約を締結しなかった場合を停止条件として金銭の返還請求権を失う消費寄託契約に基づく預入金であると解されるところ,上記アで主張したとおり,本件売買契約の締結に至らなかったのは,原告の都合によるものでないから,原告は,被告に対し,本件保証金について,消費寄託契約に基づく寄託物返還請求権を有している。
仮に,そのように解されないとしても,被告は,本件基本協定5条4項,5項が適用される場合でないにもかかわらず,本件保証金を被告に帰属させたものであり,かかる行為は,法律上原因がないにもかかわらず,原告に返還されるべき本件保証金を取り込んだものであり,不当利得に当たるから,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づく本件保証金の返還請求権を有する。
【被告の主張】
ア 本件売買契約が締結されなかったのは,以下に述べるとおり,原告の都合によるものであり,そのため,被告は,本件基本協定5条4項に基づいて同協定を解除したものであるから,同条5項により本件保証金は被告に帰属する。
(ア) 本件損害賠償請求訴訟は,Eの入居時の説明義務等に関するものであり,その当時関係者ではなかった原告が当事者となる可能性はなく,また,被告は同訴訟において勝訴している。
さらに,被告は,原告に対して,同訴訟の情報を事前に開示していた。
被告は,これらの点を説明し,原告に対して本件売買契約の締結を強く促したが,原告が応じなかったため,やむなく平成20年5月15日付けで本件基本協定を解除したものである。
なお,原告は,本件入札前に閲覧した資料の中に本件損害賠償請求訴訟に関する資料はなかったなどと主張するけれども,Bが平成19年12月11日に閲覧した資料の中には,本件意見書も含まれており,被告は,原告に対し,本件入札前に本件損害賠償請求訴訟に関する情報を開示しており,また,被告は,原告の申入れに応じて,本件基本協定の締結前である平成20年2月12日に本件意見書を原告に交付した。
(イ) 原告は,契約書の条項が確定していなかったなどと主張するけれども,被告は,不動産売買契約書案,区分地上権設定契約書案,交通事業用施設維持管理協定書案を,その都度原告に示している。
原告が指摘する多くは,原告が既に本件実施要領に記載していることを蒸し返したにすぎないものであり,それでも,被告は,可能な範囲で原告の要望を取り入れて修正を行ってきた。
(ウ) 原告は,本件入札以前から出資者に十分に説明し得た事項について,事前の説明を怠ったため,出資者から出資を得られなくなった結果,本件売買契約を締結しなかったのであり,これは,原告の都合によるものにほかならない。
イ 本件保証金は,落札者が売買契約を締結しなかった場合の損害を填補する趣旨で被告に納付されるものであり,原則として被告に帰属するものである。
そして,本件基本協定5条4項によれば,原告の都合により期限までに売買契約を締結しない場合に,被告が同協定を解除したときは本件保証金は被告に帰属させることができると定められているところ,同条2項において,議会の議決が得られなかった場合に本件保証金を返還すると具体的に定められているから,本件保証金を返還するのは当該場合に限られ,これ以外で売買契約を締結しない場合は原告の都合によるものというべきである。
仮に,本件基本協定5条4項の解釈が上記のようなものでないとしても,上記アで主張したとおり,本件売買契約が締結されなかったのは,原告の都合によるものであり,そのため,被告は同条項に基づいて同協定を解除したものであるから,同条5項により本件保証金は被告に帰属し,その利得には法律上の原因が存するというべきである。
(2) 信義則違反の有無(争点2)
【原告の主張】
被告が,原告から本件売買契約につき締結留保の連絡があった事実を大阪市会に説明していれば,平成20年3月28日の同議会の議決は得られなかったと考えられる。
被告は,この事実を秘して同議会の議決を得ることにより,本件基本協定5条2項,3項の適用を免れて,本件保証金の自己への帰属を主張できる契約上の地位を形式上取得したものにすぎないから,仮に,原告の都合によって被告の指定する期限までに,本件売買契約を締結しなかったとされる場合であったとしても,被告が同条4項,5項に基づいて本件保証金が被告に帰属した旨主張することは信義則上許されない。
【被告の主張】
大阪市会と原告との間には何ら法律関係はないから,被告の大阪市会に対する説明の有無が原告に対する信義則違反となることはない。
〔第2事件〕
(1) 本件違約金の発生の有無(争点3)
【被告の主張】
被告は,上記前提事実(5)アのとおり,本件基本協定を解除して本件違約金の支払を請求したから,原告は本件違約金の支払義務を負う。
【原告の主張】
上記(〔第1事件〕(1)【原告の主張】)のとおり,原告が本件売買契約を締結しなかったのは,原告の都合によるものではないから,被告に対して本件違約金の支払義務を負わない。
(2) 原告は本件図書につき商事留置権を有するか(争点4)
【原告の主張】
被告には商人性が認められ,本件図書は本件売買契約締結の過程において原告が受領した動産であるから,原告は,本件保証金の返還請求権を担保するために商事留置権を主張する。
【被告の主張】
本件保証金の返還請求権は商事債権ではない。
仮に商事債権であったとしても,原告は本件保証金の返還請求権を有していないから,商事留置権を行使する前提を欠いている。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実
上記前提事実に加え,証拠(甲2,7,11,12,14ないし19,22,43,44,51,乙1,2,6,10ないし16,19,20,28,29,32ないし34,36ないし38,41,47,48(枝番があるものは枝番を含む。),証人B,証人C)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件入札に係る本件実施要領の公表
被告は,平成19年11月20日,競争入札により本件施設の買受希望者を募集するため,本件実施要領を公表した。
そして,その13項は,「落札者が,正当な理由なく指定する期限までに契約を締結しないときは,落札の効力を失い,既納の入札保証金は,本市に帰属しお返しすることはできません。」と定めていた。
(2) Eと被告との間の訴訟
ア 有限会社Fは,平成9年7月17日,被告との土地信託契約によって本件施設を運用していた受託銀行との間で,Gの営業を目的として賃貸借契約を締結していたところ,平成12年7月3日,Eに対して営業の全部を譲渡し,Eは,さらに,同月19日,受託銀行との間で,Hの営業を目的として賃貸借契約を締結した。
その後,被告は,平成16年9月30日,受託銀行との間で,上記土地信託契約を合意解除したことにより,上記各賃貸借契約における賃貸人の地位を承継した。
イ 本件実施要領の特記事項1の(3)には,「平成19年11月20日現在,テナント等が残存している区画についての状況は次のとおりです。」として,残存テナントの状況が記載されていたところ,項目「イ」には,H(2階212区画)及びG(5階501区画)について,営業規則違反及び賃料等の不払を理由として被告から本件明渡請求訴訟を提起している旨及び買受人に同訴訟の承継を求める旨の記載がされ,末尾に,「なお,この契約または使用承認内容等の閲覧を,大阪市交通局総務部(財産活用)にて行います。
ただし,イについては現在係争中であるため,イの資料を閲覧するにあたっては,閲覧した資料の内容を本入札以外の用途に使用しないこと及び第三者に漏らさない旨の誓約書(別紙様式8)に記名押印のうえ,閲覧当日にご持参ください。」と記載されていた。
なお,本件入札当時,Eと被告との間で,本件明渡請求訴訟のほかに,本件損害賠償請求訴訟が係属していたが,本件実施要領にはその旨の記載はなかった。
ウ 本件損害賠償請求訴訟は,Eが,賃貸借契約の際,本件施設は成算の見込みがなかったのにその旨の告知を怠り,誇大な広告等で詐欺的勧誘をしたこと,本件施設の開業後においても,過大な警備費の支出を漫然と継続して,本件施設内の遊戯施設の更新等の営業努力を怠り,本件施設の営業日や営業時間を短縮したり,空き店舗を放置し,残存店舗の立ち退きを求めたりするなどの背信的運営を行ったことにより,E経営の飲食店舗の収益が上がらず損失を被ったと主張して,被告及び受託銀行に対し,共同不法行為ないし賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償の支払等を請求するものであった。
また,Eは,本件明渡請求訴訟において,被告の賃料支払債務の債務不履行による賃貸借契約解除の主張に対し,賃料支払義務があるとしても,本件損害賠償請求訴訟で請求している損害賠償請求権と対当額で相殺する旨の主張をしていた。
(3) 本件入札に係る本件施設の資料の供覧
ア 被告は,本件入札に先立って,本件施設に関する資料を希望者の閲覧に供した。
被告が準備した閲覧用の資料は,1青色ファイル(隣接施設であるI,残存テナントであるJ及びKに関する資料がへんてつされている。),2赤色ファイル(表紙に「E」というラベルが貼られたもの。
本件意見書とEについての賃貸借契約書のみがへんてつされている。),3緑色ファイル(ガス整圧器(ガバナー),PHS基地局関係の資料がへんてつされている。),4エンジニアリングレポート,5構造計算書1ないし3,6駐車場構造計算書,7CD−ROM3枚(構造計算書1及び2,エンジニアリングレポートが入っていたもの)であった。
被告は,上記閲覧用資料のうち,E関係の資料である赤色ファイルの閲覧については,訴訟が係属中であったことから,閲覧希望者に対し,閲覧した内容を本件入札以外の用途に使用したり,第三者に漏らさない旨の誓約書を提出させることとしていた(なお,閲覧に当たり,資料閲覧希望者全員が誓約書を提出したため,被告は,閲覧期間中,赤色ファイルを他のファイルと区別して別途保管しなかった。)。
イ 本件意見書は,本件被告訴訟代理人弁護士名義で作成されたA4用紙4枚からなる書面であり,次のとおり,本件損害賠償請求訴訟及び本件明渡請求訴訟(以下,併せて「本件各訴訟」という。)に至った経緯,本件各訴訟におけるEの主張と被告の反論,訴訟の進行状況が記載されていた。
すなわち,本件明渡請求訴訟については,Eは,被告の賃料不払に基づく賃貸借契約解除の主張に対し,Eの被告に対する損害賠償請求権と賃料を相殺する旨主張していること,これに対して,被告は,被告がEに対して損害賠償責任を負わないこと,そして,Eは別訴で損害賠償を請求しているため,Eの主張は二重起訴禁止の趣旨に反する旨反論をしていることが記載されており,また,本件損害賠償請求訴訟については,Eの,被告が受託銀行のEに対する責任を引き継いでいるとの主張に対し,被告は,「受託銀行はEに対して責任はないし,仮にあったとしても,当局は,その責任を引き継ぐ約束をしたことはない」と反論をしていることが記載されていた。
ウ Bは,Aの依頼を受けて,本件施設に関する資料を閲覧をするに当たり,Aから,本件実施要領に係争中であることが記載されている裁判関係の資料があれば,これを閲覧するよう指示されていたところ,平成19年12月7日,資料閲覧の予約の電話をした際,応対した被告総務部担当係長Cは,Bに対し,Eの資料を閲覧する際には本件実施要領にある誓約書の提出が必要となることを説明した。
そこで,Bは,同月11日,大阪市交通局庁舎内において,誓約書を提出した上で,C立会いの下,本件施設に関する資料を閲覧した。
なお,その閲覧に当たってはメモを採ることが認められており,また,被告は,平成20年2月12日の第2回契約協議会の際に,原告に対し,本件意見書を交付している。
エ なお,原告は,希望者の閲覧に供された本件施設に関する資料の中には,本件意見書は含まれていなかった旨主張するけれども,証人C及び証人Dは,いずれも本件意見書は入札の際に閲覧させる資料として用意したものである旨証言している上,本件意見書には「仮にフェスティバルゲートが売却された場合,損害賠償請求事件は引き続き,当局において継続し,明渡請求事件については,新所有者に引き継がれる予定である。」とする入札参加希望者に対するものと考えられる記載があり,被告は,E関係の資料の閲覧に当たって,閲覧希望者に対し,誓約書の提出を要求していたことからすれば,被告が準備した閲覧用上記資料の中には本件意見書が含まれていたものと認められる。原告の上記主張は,採用できない。
また,Aは,平成20年2月12日の時点において本件意見書の写しを受け取った事実はなく,本件意見書を受け取ったのは同月下旬である旨陳述(甲44)しているが,証人尋問においては,意見書を受け取った時期についてあいまいな供述をしている上,かえって,証拠(乙10,11,証人C)によれば,証人Cは,同月12日に本件意見書を原告に渡した旨証言しており,同日に行われた第2回契約協議会の議事要旨においても,配付資料として本件意見書を交付したことが記載されていること,下記(5)アで認定するとおり,同月15日の第3回契約協議会において,本件各訴訟の進捗状況について話題に上っており,原告が本件損害賠償請求訴訟について全く知らなかったとは到底考え難いことからすると,本件意見書が交付されたのは同月12日であると認められる。
(4) 原告の本件施設の落札
原告は,平成20年2月8日,本件入札において,本件保証金を納付した上,本件施設を26億円(契約金額(売買代金)は,消費税及び地方消費税相当額を含め,27億0098万2142円である。)で入札し,これを落札した。
(5) 原告の本件施設の落札後における経過
ア 原告は,平成20年2月15日の第3回契約協議会において,被告に対し,Eとの裁判の進捗状況について尋ねたところ,被告は,本件損害賠償請求訴訟は,同月28日に判決言渡し予定であるが,勝訴見込みであること,本件明渡請求訴訟は,見通しが立っておらず,今年度中には結審しない旨説明し,これに対し,原告は,同日の裁判を傍聴する旨述べた。
また,被告は,同協議会において,原告に対し,Eの賃貸借契約締結から本件各訴訟の提起に至るまでの経緯,訴訟の進行状況等が時系列で記載されている「テナント等に関する詳細説明」と題する書面を交付した。
イ 被告は,平成20年2月19日の第4回契約協議会において,原告に対して,本件施設の不動産売買契約書案を提示し,同月21日,原告と被告は,本件施設の売買契約を締結する準備をするため,上記前提事実(4)イのとおりの本件基本協定を締結した。
なお,被告は,同月22日の第5回契約協議会において,原告に対し,本件損害賠償請求訴訟の判決言渡日が同月28日から同年3月18日に変更された旨を伝えた。
ウ 被告は,平成20年3月7日の第7回契約協議会において,原告に対し,それまでの協議の結果を反映させて修正を加えた不動産売買契約書の最終案を提示した。
エ 大阪地方裁判所は,平成20年3月18日,本件損害賠償請求訴訟について,Eの被告に対する請求を棄却し,受託銀行に対し,受託銀行おいて賃貸借契約締結の際に説明・告知義務違反があり,背信的運営を行ったなどとして1億4303万3667円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる判決をした。
そこで,原告は,同月19日の第8回契約協議会において,被告に対し,本件損害賠償請求訴訟において受託銀行が敗訴したが,受託銀行の責任について被告が責任を問われることはないのかと質問したところ,被告は,受託銀行の敗訴の理由は,告知義務違反等によるものであり,被告に一切の責任はない旨回答した。
また,原告は,Eの現実の占有は今後も続き,裁判も長引くのではないかとか,場合によっては出資者を変更することも考えなければならないとか発言したが,これに対し,被告は,出資者が変わることは構わない旨述べた。
(6) 本件基本協定の解除等
ア 被告は,平成20年3月24日付けの書面により,原告に対し,本件売買契約の締結期限を同月31日と定める旨を通知し,同月25日の第9回契約協議会において,原告の要望に従って修正した不動産売買契約書の修正案を提示した。
イ 原告は,平成20年3月26日,被告に対し,同月31日までに本件施設の売買契約を締結することについて一時留保する旨の書面を送付した。
同書面には,留保する理由として,被告は,本件損害賠償請求訴訟について,被告及び受託銀行の勝訴が見込まれ,原告の本件施設の使用収益についてEの存在は障害にならない旨説明していたが,判決によると,被告の前賃貸人である受託銀行の不法行為責任が認定されており,この賃貸人の地位を被告が承継していることからすると,同判決は,本件明渡請求訴訟に良い影響を及ぼさないことが明らかであり,その内容も,本件実施要領及び被告が原告に対して事前に開示していた見込みとは著しく異なること,これらの現状では出資者に本件事業のリスク説明を尽くすことができないことが記載されていた。
これに対し,被告は,平成20年3月27日付けの「ご連絡」により,原告に対し,Eとの関係については入札に当たって十分な説明をしたこと,被告が訴訟の結果について断定的な判断を述べたことはないこと,本件損害賠償請求訴訟については被告の責任で処理しようと考えていること,したがって,これらのことは,本件売買契約の締結を留保する理由とならないことを指摘した上,本件基本協定に従って指定期日までに売買契約を締結するように求めた。
なお,被告は,本件売買契約の締結の見込みを大阪市会に報告しており,同議会は,平成20年3月28日,平成19年度補正予算案の議決をした。
ウ 被告は,平成20年4月4日付け「催告書」により,原告に対し,本件売買契約を締結するか否かについて5日以内に回答するように求めるとともに,契約締結に応じない場合には,本件基本協定を解除し,同協定に基づいて本件保証金を被告に帰属させ,本件違約金の請求を行う旨通知した。
これに対し,原告は,被告に対し,平成20年4月9日付け「ご連絡」により,本件売買契約の締結を留保した主な理由は,本件損害賠償請求訴訟の判決について不安と懸念を抱いていることであること,不安を抱いている出資者に詳細説明を行い,当月中の契約締結を目指すが,契約締結に至らなければ正式に辞退表明する旨回答した。
エ 被告は,平成20年5月9日付け「通知書」により,原告に対し,同月14日を最終期限として契約を締結するか辞退するかを決めるように求めたが,原告がこれに応じなかったため,同月15日付け「通告書」により,原告に対し,本件基本協定5条4項に基づいて本件基本協定を解除し,同条5項に基づいて本件保証金を被告に帰属させるとの意思表示をするとともに,同日付け「請求書」により,同月30日までに本件違約金を支払うよう請求した。
オ 原告は,平成20年7月28日付け「通知書」により,被告に対し,本件保証金を1週間以内に返還するよう求めた。
なお,同通知書には,原告が本件売買契約の締結を留保したのは,本件各訴訟におけるEの相殺の主張について本件実施要領に記載がなかったためであるなどと記載されていた。
(7) 本件明渡請求訴訟の帰結
大阪地方裁判所は,平成20年8月28日,本件明渡請求訴訟につき,被告のEに対する本件施設の一部の明渡し及び賃料等の請求を認容する判決をした。
2 第1事件について
(1) 争点1(本件売買契約が締結されなかったのは原告の都合によるものか。)について
ア(ア) 上記1で認定した事実によれば,被告は,本件入札に先立ち,本件意見書を含む本件施設に関する資料を落札希望者の閲覧に供しており,原告も,平成19年12月11日,本件施設に関するその他の資料とともに,本件各訴訟に至った経緯,そこにおけるEの主張と被告の反論,訴訟の進行状況等の事情が記載された本件意見書を閲覧したことが認められ,したがって,原告は,本件入札前に,本件各訴訟の存在や本件明渡請求訴訟におけるEの相殺の主張等を知っていたか又は容易に知り得たというべきである。
この点,証人Bは,上記資料を閲覧した際,表紙にEと記載された赤いファイルはなく,被告がEに対して訴訟を提起するまでのいきさつが記載された資料が,設備に関する資料と一緒のファイルにとじられていたなどと証言しているけれども,上記認定事実(3)アに加え,証人Cが,Bは,資料を閲覧した際,赤いファイルを手に取り,内容を見ていた旨証言していることなどに照らし,Bの上記証言は,直ちに信用することはできない。
(イ) また,原告は,上記認定事実(3)ウのとおり,本件基本協定を締結する前である平成20年2月12日,被告から本件意見書の交付を受けているから,遅くともその時点において,本件各訴訟の存在や本件明渡請求訴訟におけるEの相殺の主張等を認識し,又は認識し得たことは明らかである。
この点について,原告は,本件意見書には,「受託銀行はEに対して責任はない」との記載がある上,被告担当者も負けることはないなどと説明しているし,本件損害賠償請求訴訟は,そもそも本件実施要領に記載のない訴訟であったため,特に関心を払わなかったなどと主張するが,上記認定事実(3)イから明らかなように,原告が指摘する本件意見書の上記記載は,訴訟における被告の主張として記載されているものであって,訴訟の結果に対する見込みではないし,また,Eの相殺の主張にしても,本件実施要領に記載された本件明渡請求訴訟におけるEの主張として本件意見書に記載されているのであるから,本件明渡請求訴訟に関する記載内容を読めば,当然に気付いてしかるべきであることからすれば,原告の上記主張は認められず,仮に,本件意見書の交付を受けた後も,原告が本件損害賠償請求訴訟の存在等に関心を払わなかったとしても,そのことについて,被告に責任があるということはできない。
(ウ) したがって,原告が主張する本件損害賠償請求訴訟の存在や相殺に関するEの主張等は,原告において本件入札前及び本件基本協定の締結前に十分に検討することができた事柄であるから,本件損害賠償請求訴訟について,Eの受託銀行に対する損害賠償請求を一部認容する判決がなされたからといって,本件売買契約の締結を留保することに正当な理由があるとは認められず,原告が被告の定めた期限までに売買契約を締結しなかったのは,専ら原告の都合によるものであるというべきである。
イ(ア) また,原告は,本件損害賠償請求訴訟は,その存在,内容及び帰趨がEの本件施設明渡しに重大な影響を及ぼすのであるから,本件実施要領に記載すべきであった旨主張する。
しかしながら,上記認定事実(2)ウのとおり,本件損害賠償請求訴訟において争われているのは,賃貸人の不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任であるから,本件施設を買い受けた者が当然に同訴訟の当事者となるものではなく,同訴訟は買受人には直接関係のない訴訟である。
確かに,本件明渡請求訴訟における被告の賃料未払による賃貸借契約解除の主張に対し,Eが本件損害賠償請求訴訟における損害賠償請求権を自働債権として賃料と対当額で相殺するとの主張していることが,本件施設の買受人にとって全く無関係であるとはいえないにしても,係争中の訴訟における相手方の主張についてまで,誰でも閲覧できる本件実施要領に記載しないことはやむを得ないものであり,本件実施要領において係争中であることを記載した上,相手方の主張等の詳細については,誓約書の提出を求めた上で本件意見書を閲覧に供しているのであるから,これをもって足りるというべきである。
なお,原告は,Eによる損害賠償請求の根拠は,賃貸人による背信的運営方法であって,これが認められれば,本件明渡請求訴訟において被告が主張しているEの営業管理規則違反を理由とした賃貸借契約解除の主張は認められない可能性が高いし,本件損害賠償請求訴訟は,Eの明渡しに事実上の影響を与える可能性もあるなどと主張するけれども,そうであるとしても,上記判断を覆すものではない。
(イ) また,原告は,仮に本件意見書が閲覧資料の中にあったとしても,少なくとも,被告は,入札参加希望者が資料を閲覧するに際し,本件実施要領に記載のない本件損害賠償請求訴訟に関する意見書があるので注意して閲覧するよう説明すべきであった旨主張する。
しかしながら,原告を含め,数億円ないし数十億円もの極めて高額な物件を買い受けようとする入札参加希望者にとって,本件施設の占有者がいかなる占有権原に基づいて占有しているのか,速やかに本件施設の明渡しを受けられるのかなどといった事柄は最大の関心事であるから,被告から読むべき資料について説明を受けるまでもなく,そうした点について詳細を自ら調査することは当然のことである。
そして,上記認定事実(3)アのとおり,本件意見書は,表紙に「E」というラベルが張られた赤色ファイルにとじられていた上,そのファイルにとじられていたのは,本件意見書とEについての賃貸借契約書だけであったのであるから,本件意見書が膨大な資料の中に紛れていたなどというような事情はなかったし,また,本件意見書には,本件実施要領に記載された本件明渡請求訴訟に加え,本件損害賠償請求訴訟に関することが記載されていたのであるから,本件明渡請求訴訟に関する資料を見れば,本件損害賠償請求訴訟の情報を得ることができる状態であったといえ,被告は,本件各訴訟について十分な情報提供をしていたものと認められ,これを超えて,原告を含む入札参加希望者に対し,閲覧すべき資料につき,殊更注意喚起をすべき義務を負うことはない。
ウ さらに,原告は,本件売買契約の締結に当たっては,本件損害賠償請求訴訟の問題のほか,1地下鉄の駅と連絡するエレベーター及びエスカレーターに関する権利関係について最終的な合意に達していなかったこと,2被告は,ポスターの掲示について事前に被告の許可を求めることや大阪市交通局のライバル会社のポスター・看板等の掲示は一切許可しないという本件実施要領にない新たな条件を提示したこと,3土壌汚染,アスベスト,耐震性等本件施設の安全を確保する上で必要不可欠な情報提供の依頼に対し,被告が不誠実な対応をしたことなどの問題があった旨主張する。
しかしながら,上記認定事実(6)イ,ウ及びオで認定したとおり,原告は,本件訴訟に至るまで,本件売買契約の締結を留保する理由としては,本件損害賠償請求訴訟の存在及び相殺に関するEの主張を知らされていなかったことのみを挙げていたにとどまっていたことからすれば,原告が主張する上記1ないし3の事情をもって,原告が売買契約を締結できなかった理由であるとは認められない。
かえって,証拠(甲1,2,11,31,乙1,2,6の4,乙38の1及び2,証人C)によれば,1については,本件実施要領及び本件基本協定には,地下鉄の駅と連絡するエレベーター及びエスカレーターの所有権は被告に帰属し,被告がこれらに区分地上権を設定することが明記されていること,それにもかかわらず,原告の強い要望によって,被告は,平成20年3月25日,これらについても原告が所有する内容の不動産売買契約書案を原告に提示したこと,3については,本件実施要領には,現状では土壌汚染は確認されておらず,土壌汚染対策法に規定する土壌汚染状況に関する調査は実施していないこと,建物状況調査に関する資料(エンジニアリング・レポート)によれば,飛散性の吹付材は確認されておらず,耐震安全性は良好であるとの報告がされていることが記載されており,上記エンジニアリング・レポートは,本件入札前に閲覧に供されていることが認められる。
そして,2についても,証拠(乙35の1,乙47,証人A)によれば,被告が,ポスターの掲示について許可を取得するよう述べたのは,飽くまで被告が区分地上権を設定する場所についてのことであって,原告から要望のあったエレベーターやエスカレーターの手すり部分については,被告担当者は,原告に対し,問題はない旨返答したことが認められるのであって,原告が本件において指摘する上記1ないし3について,被告の対応に問題があったとは認められない。
また,原告は,本件売買契約に関する売買契約書の条項が確定せず,平成20年3月31日までに本契約を締結できる状態ではなかったなどとも主張しているが,このことをもって本件売買契約の締結を留保した理由であったとは認められないし,上記認定事実(5)イ,ウ及び(6)アで認定したとおり,被告が原告との協議に基づき,上記売買契約書の条項に修正を加えるなどして,原告に提示していたことからすれば,原告の主張は理由がない。
エ なお,原告は,被告は再入札により本件施設を他者に売却したところ,本件施設の登記は平成22年1月12日時点においても新買受人に移転されておらず,被告は,移転登記をした際に得られると考えられる巨額の税収を不意にしてまで新買受人に移転登記をしないという利便を図っており,このような事情に照らしても,被告が本件明渡請求訴訟の判決の前である平成20年5月15日に慌てて本件基本協定を解除したことに合理的な理由を見いだすことはできないなどと主張する。
しかしながら,本件基本協定5条4項によれば,被告は,原告の都合によって被告が指定する期限までに本件売買契約を締結しない場合には同協定を解除することとされており,また,原告が自己の都合によって被告が指定する期限までに同契約を締結しなかったことは,既に上記アで認定説示したとおりであって,そもそも被告には本件明渡請求訴訟の判決言渡しまで同契約の締結を待たなければならない理由はなく,原告の主張は採用できない。
その他,原告は,本件売買契約を期限までに締結できなかった事情について,るる主張するけれども,いずれも理由がなく,上記認定を覆すに足りない。
(2) 争点2(信義則違反の有無)について
原告は,被告が原告から本件売買契約につき締結留保の連絡があった事実を秘して大阪市会の議決を得たものであるから,原告に対し,本件基本協定5条4項,5項に基づいて本件保証金が被告に帰属した旨主張することは信義則上許されない旨主張するけれども,原告から本件売買契約の締結を留保する旨の連絡があった事実を明らかにしていれば,大阪市会の議決が得られなかったという関係にはないし,そもそも本件実施要領が公表された段階から,平成19年度補正予算の議決を得て平成20年3月末までに売買代金の支払を済ませることが予定されており(甲2,乙2),このことは原,被告間で締結された本件基本協定でも同様であって,被告が本件保証金を自己に帰属させるために殊更上記連絡を秘匿して,議決を得ることを急いだという事実もうかがえないから,本件において,被告が大阪市会の議決を得たことが原告との間で信義則違反となるような事情は認められず,原告の主張は採用できない。
(3) 以上のとおり,本件売買契約は,原告の都合により,被告の指定する期限までに締結することができなかったのであるから,本件保証金は,本件基本協定5条4項,5項に基づいて被告に帰属するものと認められる。
そうすると,本件保証金の納付が消費寄託契約によるものかどうかについて検討するまでもなく,原告による消費寄託契約又は不当利得返還請求権に基づく本件保証金の返還請求はいずれも認められない。
3 第2事件について
(1) 争点3(本件違約金の発生の有無)について
上記前提事実(4)イ(ウ)によれば,本件基本協定6条1項は,原告は,同協定5条4項の規定により本件基本協定が解除された場合,売買代金の3割(1円未満切上げ)に当たる8億1029万4643円を違約金として,被告の指定する期間内に被告に支払わなければならないと定めているところ,上記2で認定説示したとおり,本件基本協定5条4項に基づく同協定の解除は有効であり,そして,被告は,上記1(6)エのとおり,平成20年5月15日付け「通告書」により,原告に対し,同月30日までに本件違約金を支払うよう請求したものであるから,原告は,本件基本協定6条1項に基づき,被告に対し,本件違約金8億1029万4643円を支払う義務を負うものというべきである。
(2) 争点4(原告は本件図書につき商事留置権を有するか)についてア 被告が,原告から,本件施設を取得した後の工事計画を検討したいとして,本件図書の貸借方の申入れがあったことから,平成20年2月19日,原告との間で,本件図書について期限の定めなき使用貸借契約を締結し,原告に本件図書を交付したことは,上記前提事実(4)アのとおりであり,原告が使用貸借契約の目的に従った使用収益を終了していることは当事者間に争いがないところ,上記2で認定説示したとおり,原告は被告に対して本件保証金の返還請求権を有しないから,原告は,本件図書について商事留置権を有せず,原告の主張は,前提を欠くものであって失当である。
イ したがって,被告は,原告に対し,本件図書の返還を求めることができる。

第4 結論

以上のとおりであって,被告の請求は,いずれも理由があるからこれを認容し,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

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